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最高裁判所第一小法廷 昭和29年(オ)391号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人堤千秋の上告理由について。

論旨は、所論の本件消防長のなした同意取消は、行政事件訴訟特例法の対象となる行政処分であると主張するに帰する。しかし同法が行政処分の取消変更を求める訴を規定しているのは、公権力の主体たる国又は公共団体がその行為によつて、国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められている場合に、行政庁によつてなされる具体的行為によつて、権利を侵害された者のために、その違法を主張せしめ、その効力を失わしめるためである(昭和二八年(オ)第一三六二号、同三〇年二月二四日第一小法廷判決、民集九巻二号二一七頁参照)。従つて、かかる抗告訴訟の対象となるべき行政庁の行為は、対国民との直接の関係において、その権利義務に関係あるものたることを必要とし、行政機関相互間における行為は、その行為が、国民に対する直接の関係において、その権利義務を形成し、又はその範囲を確定する効果を伴うものでない限りは、抗告訴訟の対象とならない(昭和二五年(オ)第三二九号、同二七年一月二五日第二小法廷判決、民集六巻一号三三頁、同二五年(オ)第一六〇号、同二七年三月六日第一小法廷判決、民集六巻三号三一三頁参照)。そして、このことは、行政事件訴訟特例法により行政庁の行為の無効確認を求める場合においても同様である。しかるに本件消防長の同意は、知事に対する行政機関相互間の行為であつて、これにより対国民との直接の関係においてその権利義務を形成し又はその範囲を確定する行為とは認められないから、前記法律の適用については、これを訴訟の対象となる行政処分ということはできない。それ故、本件においては、知事のなした建築出願不許可処分に対し、その違法を理由として行政訴訟を適法に提起し、その訴訟において、右不許可処分の前提となつた消防長の同意拒絶乃至同意取消の違法を主張しうることは格別、行政機関相互間の行為たるに止まる、知事に対する消防長の本件同意拒絶乃至同意取消の違法を主張して消防長を被告としてその取消乃至無効確認を求める訴は、不適法たるを免れず、これと同趣旨に出でた原判決は正当である。所論は採るを得ない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 下飯坂潤夫)

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